学習は「気合」ではなく、脳の構造変化である
私たちは日常的に「覚えた」「分かった」「身についた」という言葉を使います。
しかし、これらは脳の中で何が起きているのでしょうか。
この問いに科学的な答えを与えた研究者が、ノーベル生理学・医学賞受賞者の エリック・カンデル です。
カンデルの研究の核心
カンデルは、アメフラシ(Aplysia)という単純な神経系を持つ生物を用いて、次のことを示しました。
学習と記憶は、神経細胞(ニューロン)同士のつながり=シナプスが物理的・化学的に変化することで成立する
短期記憶と長期記憶の違い
| 種類 | 脳内で起きていること |
|---|---|
| 短期記憶 | シナプスの働きが一時的に強まる(タンパク質修飾) |
| 長期記憶 | 新しいタンパク質が作られ、シナプス構造そのものが変わる |
つまり、「ちょっと分かった」「何度も使えている」では、脳内の状態がまったく違うのです。
出典
- Kandel et al., Principles of Neural Science
- Kandel (2001) Nobel Lecture
学習とは「シナプスが変わること」
Memory storage is a change in synaptic strength.
(記憶の保存とは、シナプス強度の変化である)
これは神経科学の定説になっています。
つまり学習とは「情報を聞いたこと 」「理解した気がすること 」ではなく、
神経回路が「次に同じ判断をしやすい構造」に書き換わること
なのです。
学習において「繰り返し」が重要な理由
カンデルの研究では、
- 1回の刺激 → 短期変化
- 繰り返し刺激 → 遺伝子発現 → 構造変化
が確認されています。
これが意味するのは
- 一夜漬けは脳構造をほぼ変えない
- 体験・試行・反復は脳を作り替える
ということです。
感情・報酬が学習を強化する理由
カンデルは後の研究で、ドーパミンやセロトニンなどの神経修飾物質が、「重要な学習」「意味のある経験」を選別して強化することも示しました。
楽しい・悔しい・驚いた こうした感情が伴う学習ほど、シナプス変化が起きやすいということになります。
ここから「学習」について何が言えるか
カンデルの研究から、脳と学習の関係について、
学習とは、判断や行動の回路を更新すること
だと捉えられます。
ですから、説明を聞くだけでは定着しにくく、自分で考え、試し、失敗することで定着するということが分かります。
このことから、体験型・探究型学習は、神経科学的に理にかなっており、学習効率の良い方法であると言えます。
まとめ
カンデルの研究が明らかにした最も重要な点は、学習や記憶が「気合」や「理解した感覚」ではなく、脳内のシナプス構造の変化として実在する現象だということです。
一度聞いて分かったつもりになる学習と、何度も試し、考え、使えるようになる学習とでは、脳の中で起きている変化はまったく異なります。
前者は一時的な活動にとどまり、後者は神経回路そのものを書き換えます。
この視点に立つと、「なぜ繰り返しが必要なのか」「なぜ体験や失敗が重要なのか」「なぜ楽しい学習ほど定着しやすいのか」といった疑問は、すべて神経科学的に説明がつきます。
学習とは、情報を頭に入れる行為ではありません。次に同じ状況に直面したとき、より良い判断や行動が自然にできるよう、脳を再配線するプロセスです。
だからこそ、試行錯誤や主体的な体験を伴う学びは、単なる知識伝達よりも強い力を持ちます。
それは「面白いから」ではなく、脳が本来、そうやって変わるようにできているからです。
この理解は、教育のあり方を考えるうえで、極めて本質的なヒントを与えてくれます。
参考文献
- Eric R. Kandel, Principles of Neural Science
- Eric R. Kandel, Nobel Lecture (2001)
- Bear et al., Neuroscience: Exploring the Br
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